LOG IN

初旅公演の記憶

by さいとうみかこ

ちょっと、20代の頃のことを思い出していた。

20歳で初めて親元を離れて、北海道から上京して劇団に入った。

最初の仕事は、当時作っていた新作の小道具スタッフで、その初日まで約10日ほど。

福島県~宮城県を6カ所ほど巡る旅公演に付いた。

舞台の言葉もよくわからなかった。

先輩

ちょっとそこの小割(こわり)取って!

わたし

え、あの棒ッコですか??

先輩

今、北海道の風が吹いた(笑)

最初の公演地は福島県の広野町だった。

昔ながらの体育館公演で、舞台の設営は竹竿に照明を吊って天井からロープで釣り下ろす作業もあった。

わたしだけではなく、座歴1年未満の新人が多いチームだったので、この初日から体育館公演はかなり無謀で、だから東京からベテランスタッフも何人か応援に来ていた。

広野町は海辺の町で、主催実行委員会には漁協青年部の兄ちゃんが多かった。

なかなかチケットを売ることに本気になれず直前まで劇団の担当者がヤキモキしたけれど、公演1週間前からものすごい集中をして、当日は満席の予定。

その経過が、この町に半年通った担当者から、公演チーム全員に語られる。

人口、主要産業、名産品などの概要から、誰とどのように出会って実行委員会が発足したのか、その後どのような取り組みがあって、公演当日を迎えたのか。

数ヶ月をかけて1日限りの公演を準備してきた過程を共有する。

この広野町の話しはかなりドラマチックで、ベテラン俳優も目に涙をにじませる内容だった。

舞台の設営中、小道具係のわたしは、芝居中に使うバナナを買いに行くことになった。

漁師のお兄さんが運転するトラックに乗って、海を見下ろす坂道を走った。

晴れていて、海がとても青かった。

新作の初日、しかも新人が多数という、たぶんお世辞にも熟練とはほど遠い舞台だったと思うが、上演後は拍手であふれた。

交流会も選抜メンバーではなく、一番新人のわたしに至るまで全員参加で盛り上がった。

美味しいお刺身が出ていたけれど、一人一言の感想が始まると、話しを一生懸命聞くあまり、手がつけられなくて、閉会になる時にあわてて食べた。

その様子を、車に乗せてくれた兄ちゃんが、

「ずっと食べてなかったろ」と笑ってた。

あんなに美しい海辺の町が、今はどうなっているか…。

時折、ニュースで名前を見ると胸がぎゅっとなる。

現在の避難者数

平成28年8月9日現在2,265人 内訳… 県内1,979人、県外286人

町内在住者:2,828人(平成28年8月25日現在)

4.広野町の状況 - 福島県ホームページ http://www.pref.fukushima.lg.jp/site/portal/26-5.html

OTHER SNAPS